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大阪高等裁判所 昭和62年(う)797号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年四月に処する

原審における未決勾留日数中四八日を右の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、和歌山地方検察庁御坊支部検察官検事谷本和雄作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人谷口光雄作成の答弁書記載のとおりであるから、それぞれこれらを引用する。

論旨は、要するに、原判決は、罪となるべき事実として、本件公訴事実と同一の各事実を認定した上、「被告人を懲役一年四月に処する。未決勾留日数中五〇日を右刑に算入する。」旨の判決を言渡したが、右判決は、本刑に算入できる未決勾留日数四八日を超過する日数を未決勾留日数として本刑に算入した点において、刑法二一条の解釈適用を誤つた違法があり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない、というのである。

よつて、案ずるに、原判決が罪となるべき事実として、本件各公訴事実どおりの事実を認定した上、「被告人を懲役一年四月に処する。未決勾留日数中五〇日を右刑に算入する。」旨の判決を言い渡していることは、原判決及び本件記録に徴し明らかである。

そこで、記録に基づき、被告人の身柄拘束の状況をみると、被告人は、昭和六二年四月六日別件であるAに対する覚せい剤の有償譲渡の事実により逮捕され、同月八日同事実につき発せられた勾留状の執行を受け(以下、この勾留を「別件勾留」という。)たが、右事実については起訴されず、同月一七日、これと併合罪の関係に立つ原判示第二の覚せい剤の自己使用の事実につき起訴され、「勾留中求令状」の形式で、同日同事実につき新たに発せられた勾留状の執行を受け(以下、この勾留を「本件勾留」という。)るとともに、右別件勾留については釈放の手続がとられたこと、被告人に対する本件勾留は、同年六月四日の判決宣告に至るまで継続されたこと、以上の事実が認められ、この事実によると、被告人が、別件の勾留状により拘禁された未決勾留日数は一〇日、本件の勾留状により拘禁された未決勾留日数は四八日であつて、原判決が本刑に算入した未決勾留日数は、本件勾留によるそれを二日超過していることが明らかである。

ところで、原判決には格別説示するところはないが、原判決は、本件未決勾留日数の算入に当たり、別件の勾留による未決勾留の日数をも本件の本刑に算入し得るとしたものと解されるので、その適否について検討すると、刑法二一条にいう算入の対象となる未決勾留の日数は、勾留の初日から判決言渡の日の前日までであり、起訴前のそれをも含むが、それは、本刑の科せられた罪と同一の事実について発せられた勾留状による拘禁の日数か、少くともそれと併合審理された公訴事実について発せられた勾留状による拘禁の日数をさすものというべきであり、何ら起訴されていない被疑事実について発せられた勾留状による拘禁の日数は、たといそれが起訴された罪の捜査取調べにつき実質上利用されたものとしても(本件においては、別件勾留期間中の四月一五日、一六日の二日間にわたり、原判示第二の事実についても並行して取調べが行われている。)、起訴された罪の本刑に算入し得ないものといわなければならない。本件においては、別件勾留の基礎となつた覚せい剤譲渡の事実は不起訴となつており、これと本件各公訴事実とは別罪の関係にあるから、本件の本刑に、別件勾留による拘禁の日数中の二日間を算入した原判決は誤つているといわざるを得ない。弁護人は、その答弁書中において、最高裁第三小法廷昭和三〇年一二月二六日判決(刑集九巻一四号二九九六頁)などを引用して、原判決の正当性をるる主張しているが、右引用にかかる判決の事案と本件事案とは事案を異にしており、右主張はにわかに採用しがたい。してみると、原判決は、刑法二一条の解釈適用を誤り、本来本刑に算入し得ない未決勾留日数二日間を、これに算入した違法のかどがあつて、それが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書により、当裁判所において直ちに判決することとし、原判決が認定した事実(累犯前科を含む。)に原判決挙示の法令(ただし訴訟費用の点を除く。)を適用し、被告人を主文二、三項のとおり量刑処断し、なお原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項ただし書により、これらを被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岡次郎 裁判官木村幸男 裁判官森下康弘)

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